麦雑穀工房マイクロブルワリー

パイプハウスをつくる

 パイプハウスをつくることにした。ビニールハウスともいう。ねらいは穀類や緑麦芽の天日乾燥、野菜類の育苗・霜避け雨避け栽培。ほかにもいろいろ考えられる。大きさは3.6m×9m。設置場所は第三農場。
 それはそれはたいへん便利につかえる。乾燥作業一つとりあげてみただけでも生産性がおおきく向上するのは明らかである。しかし、こうした資材を利用する施設の導入は、たいへん便利で高い能率が期待できる動力機械同様、自然力をかかげる農の考え方になじまない側面がある。しかし、そういいながら導入する。それはたとえばここでのインフラであるところの情報関連技術の利活用がそうであるように、現代科学技術の成果のすべてを否定しているわけではない。よくいえばバランス。いいかえれば不徹底、中途半端ともいえようが、やみくもな導入は避けるとともに、中古廃物の修理再生を優先させる、として茶をにごす。


J2012年3月6日〜12日 予定地の準備

 予定地は廃天ぷら油(BDF)が入ったドラム缶や腐葉土・薪枝などの堆積場になっていた。それらを数日前から整理していたので一応、見渡せるようになった(写真左)。
 上にいくにしたがって勾配が急になる傾斜地である。こんな傾斜にパイプハウスをつくったら、どんなものができるのか。イメージが湧かない。が、まあ、このおもしろい傾斜をそのままに受け入れよう。なんらかの判断が必要なときには、それがもっとも自然だと思える方を選択すればいい、か。
 ここに三平方の定理をつかって直角をだした3.6m×9mの四隅に仮柱をたてて、水糸を張る。勾配が変化しているから、水糸を張ると中央がへこむ格好になる。んー。せっかく水糸を張ったのだから、水糸に導かれることにするか。
 パイプを埋め込む深さは、傾斜の低い方ほど浅く、高い方ほど深くなる。困ったことに風が当たる側が浅い。ここで、さっそく、使い勝手を優先して、自然に逆らったのだ。しかたない、浅い方には補強の杭を打っておこう。
 部材が届くまでまだ間があるから、フィルムを埋める溝を掘っておくことにした。

 

J2012年3月13日 穴あけ治具を用意 部材が到着
 穴あけ治具(左)。杭柱を垂直に誘導する穴をあけるためのキリである。深さ60cmまでの穴が掘れるはず。アースオーガーと呼ぶ商品も入手できるが。25cmの木工キリと20cmのハツリビットを直管25cmで接続してしつらえた。溶接が苦手なので、4φの金属キリで横穴を通して釘で固定している。
 昨日の夕方、部材が到着した(右)。重いのでそのまま軽トラに横滑りさせておいた。今日さっそく、部材数量をチェックした。アーチパイプ42本、直管22φ42本、直管19φ35本、外ジョイント63個、クロスワン126個、ヒロパイプジョイント114個、などなど。46種類。細かい部品まで全ての数を点検するのを断念。大物だけ数を確認、小物は数の点検を省略した。

 

J2012年3月14日 42本の柱をたてる
 左右に45センチ間隔で21本、ひとまず合計42本の柱をたてる。柱の位置がハウスの内外方向にずれると、水平の通しパイプにフイルムを巻く「巻上げ換気」がうまく動かないはず。しかし、ここの土地は石が多い。下穴なしで杭を掛矢で打つと、大きな石にあたった場合、規定位置から逃げてしまう。そこで、深さ60cmまで掘れる手製のアースオーガーで穴をあけてから、杭を打つというもくろみなのだが。
 ところが現実はこの畑は岩石が多い。大きな石や岩にあたると、先端が木工キリだけのこと、それ以上先に進まない。障害物をツルハシで掘り出さざるを得ない。とはいっても、そんな場面は1割ほどだった。大方、手製のアースオーガーが威力を発揮した。小さな石は跳ね除け、やわらかい岩なら掘り進んだ。

 

J2012年3月15日 最下部の通し直管とアーチパイプ
 アーチパイプを繋ぐ前に、最下部に直管を通して柱に金具で仮止めした。柱の先端をツライチに調整して固定するのが狙いである。くわえて、直管を通したので柱の内外方向の位置ずれも分かりやすい。一応、それらを補正をしてから、アーチパイプを繋いだ。
 ここで問題が表面化。左右のアーチパイプを頂部で繋ぐ金具が1個足りない。どこを探しても見あたらない。30cmほどの小さな金具1個だが、これがなければ前進しない。部材が到着したときにしっかりと数を確認しなかったつけである。ともかくすぐに取り寄せよう。

 

J2012年3月19日 スピードの時代を実感
 不足部材の小さな金具1個は電話をすると翌日宅配された。スピードの時代を実感。たしかに便利だが、このスピードに費やすエネルギーに思いをめぐらすと、なにやらうしろめたい。
 ともかく、翌日にはアーチが完成した。
 次いで通しパイプで、アーチを補強して、天井と側面のフイルムを固定する長尺部材をとりつけた。こういう部材をとりつけてはじめてみがみえてくるものがある。ゆがみである。全体が見通せたということか。しょっぱなの42本の柱が左右にぶれたのでアーチパイプの湾曲が不均一になってしまったのが原因だろう。かつて、数十年間も同じ分野で働き、いまの自認百姓の視点からみればかなりの高給を頂戴してきたにもかかわらず、こういった局面がいくどもいくどもあっても、それに気づきもせずにやり過ごしてきたんだろう、などとセンチな気分に浸った。まぁ、それでも、いま象徴の金権エゴ・権力エゴむきだしの政治屋さんはじめ組織エゴ・村エゴあたりまえに活動してきたわけではない、として安堵するか。

 

 ゆがみを補正
 左右に凸凹があると、スムーズな巻上げ換気ができないのではないかと案じて、ゆがみを補正する作業を実施した。しょっぱなの工事にゆがみがあったわけだから、今になって補正しようとしても満足に仕上がるものではない。とはいえ補正作業にはそれなりに可能性を期待する。
 ロープを農場内にある電柱や作業小屋の柱に結び、凸凹部をレバーブロックで引っ張った(左)。時間の経過とともに元に戻ろうとするので、少しいき過ぎと思える程度に補正。夕方、だいぶ元に戻ってしまったように見える。まあいいか(中、右)。

   

J2012年3月21日 妻面
 表と裏の妻面。表面は引戸を組み立てて設置。
 パイプの切断は10箇所余りだったが、フイルム固定金具をカットする作業が意外に多い。金ノコで容易に切れるものの、万力にくわえての作業だから寸法を測って作業台にいったりきたりする。それでも、百姓のやること、ほかに九十九ある仕事の合間でのこの作業ながら、2日間で終了。

   

 骨組みが完成
 はじめてパイプ工事を経験した。この歳になって恥ずかしながら、あらためて最初の基礎部分が肝心であること学んだ。この例では42本の柱をたてるための下穴である。これを慎重に、きちんと垂直に掘っておくことが大切だったのだ。
 下穴を掘る位置に石や岩があった。小石や軟らかい岩の場合は強引に掘れたので、そのまま掘り進んだ。結果、そういう柱は、少し位置ずれが生じて垂直が逃げた。それが発端の原因である。天井の通しパイプが湾曲した。19日、補正してから数時間後の確認ではまっすぐだったのだが。いまさら直せるわけでもないし、この程度なら許容範囲とする。

 

J2012年3月22日 水と電気
 水は必需。すでに落差2mの伏流水のパイプが立ちあがっている。一方の電気はおてのもの。今は使わない八木アンテナの最も長い素子のアルミ管を利用して、電線を保護して埋設。立ちあげは13φの塩ビ管。
 

 はじめてのフイルム張り
 こんどははじめてのフイルム張りである。はじめては、いかなるものも緊張するし、わくわくするし、楽しい。では、左右側面の最下部(スソ張り)からはじめる。
 

J2012年3月23日 妻面のフイルムを張る
 正面の出入り口部は目立つ。きれいに仕上げられるか。だが、どうすればたるみなく張れるのか分からない。どこかで読んだ「いずれフイルムが収縮するからラフに貼る」。たしかに、類似材料をつかう仕込み場の床材が、高温と低温を繰り返すところで収縮が激しい。まあ、これが、かりに収縮しにくい材料だとしても、ここのたるみが大事にいたる、ということもないだろう。
 結果、道路側から見ると(写真左)ヨレヨレだが、内側から見れば(右)見事にビシッと張れている。

 

J2012年3月24日 ハメコロシ部分を張る
 ハメコロシ窓といえば分かりやすい。動かない窓、開かない窓。側面、巻上げ部の前後にあるから、4ヶ所である。
 

J2012年3月26日 巻上げ換気のフイルムを張る
 早朝は連日氷点下。この時期にしては寒い。今日はとくに季節風も強い。谷津特有、風向きがころころ変化する。こんな日に大物のフイルムを展開しても大丈夫か。
 巻上げ換気のフイルム。サイズが1.5m×10m。フイルム厚が0.15mm。表面に澱粉粉処理が施してあるという。強風のうえ乾燥気候だが、意外に作業が楽。

 

 天井のフイルムを張る
 大物フィルム。4.6m×10m。この先、寒波が襲来してより強い季節風がふく懸念がある。天井だけを開放のまま放置できない。こんな強風のなかだが、作業を強行。巻上げ部がスムーズに張れたのだから大丈夫だろう。
 早計だが少し慣れてきたので、手早くこなそう。たしかに、大物ではあった。しかし、トラブルなく、素直に、うまく仕上がった。

   

J2012年4月9日 はじめてのパイプハウス活用−緑麦芽の天日乾燥−
 沢沿いのソメイヨシノのつぼみが大きく膨らみ、いまにもはちきれそう。雑木の芽吹きとともに山肌が赤みを増すころ、この山中では麦芽製造にうってつけの季節になる。いまだに一部未完成のまま温度制御が不十分な自然エネルギーにたよる発芽システム。気温が極端に低温になったり高温になったりすると浸麦槽&発芽槽を適温に制御しきれていない。それでも今季は、麦が出穂期を迎えるまでの短いあいだ、このシステムをフル稼働することでなんとか乗りきれそうである。
 写真左。はじめてのパイプハウス活用で、はじめて緑麦芽の天日乾燥をおこなった。思った以上に「ハウス内は高湿度」。巻上げ換気だけでいけるかどうか、もう少し様子をみる。写真右はハウス内で5日間天日乾燥後、焙燥をおこない、根掻き作業中。5日間もかけてじわじわと乾燥した麦芽が仕上がりにどのように作用したか。




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