87年製、STIHL024AVのジャンク品を入手した(左)。エンジンがかからない。錆ついたマフラーと付着した黒い油が24年の歳月を感じさせる。プロも修理を断念したのではないか。これを再生するつもり。
知人からSTIHL製チェンソーの評価を聞いていた。それほど素晴らしいものなら欲しいと思うことがないではなかったが、新しい動力機械を導入するなどという発想はもともと存在しないし、大きなパワーで強引に丸太をスイスイ切ってしまうとなると、どこかから抵抗の薄膜が被ってくるため、積極的でなかったのだが。たまたまジャンクのそれがあるとのことなので、鉄屑にしてしまってはモッタイナイから引き取って再生することになった。ジャンクモノの再生は楽しいし、来期からの伐採とカット作業も楽しめる。
使い古した歯ブラシに石油を付けてこすれば、たいがいの油汚れは除去できる(右)。
・まっ先に電気系をチェック
スパークが出るか、STOPスイッチやそのラインが短絡してないか。
スパークが出るためには発電機が機能しているかどうか。高圧発生がどのような仕組みになっているか。カバーを外して確認。
高電圧発生方式は半導体SCRを使用したCDI方式か。機械式ならば接点のいわゆるポイントがあるはず。それが見当たらない。87年当時ならば半導体を採用するか。ロータリー側にはあたりまえのマグネット。本体側にはコイル、コンデンサ、半導体をモールデングしたと考えられえる円筒状の部品。この方式なら高電圧発生系の故障は少ないはず。
つぎに、高圧放電するかどうかだが、スパークが確認できない。だからといって高圧回路に不具合があると断言できない。ことによったらスパークタイムが短いために目視できないのかも知れない。
そこで、スパークプラグのソケットの電圧をテスターで計測してみた。昔、テスターは秋葉原で入手したものだが今ではホームセンターにある。数百円。さて、スターターのプーリーを回すと、プラス・マイナスの電圧が発生している。okだ。測定レンジは写真のようにDC10V。このテスターの振れではたかだか数ボルトでしかない。ポイント式の高圧でもその程度を示すのが正常。スパークタイムが短いためにテスターの針が追従しないだけのことだと考えている。これは経験から学んだ独自の判断法。断線してないしSCRも健在の様子。電圧波形を見ればベストなのだがオシロスコープを母屋の2階まで取りにゆくのがめんどうなので、高圧発生系はこれでokとする。
つぎに、スパークプラグの掃除。スパークプラグを外す→真鍮ブラシをかける→キャブレタークリーナーを噴く→エアーで吹く。
ところで、下の写真のストップスイッチ。接点を閉じると高圧発生を阻止するようだが、その左にあるものはなんだろうか。燃料タンクに繋がっている。燃料をスムーズに供給するための「エアー吸い込みピンホール」のためのタワーか。
・マフラー
エンジン不調の原因のひとつがマフラーの詰まり。しばらく使っていなかったと思える機械。土蜂が巣をつくるはずはないだろうが、変わり者の虫が侵入している場合もあろう。ともかく外して分解。
ここからピストンがみえる。プーリーをまわして上下動かす。ピストンリングに異常がないようだ。
マフラーはまったく問題がなかった。ただし、さびがひどいのでブラシで磨き、ストーブペイントを塗る。このストーブペイントは先の知人からダッチウェストのストーブを頂いた際に付属で頂いたものである。
・エアフィルター
分解して石油に浸した後、エアーで吹く。エアフィルターは容易に二つに分かれる。切れないナイフの刃先をつかって溝をこじるだけでよい。
ところが最初、分解方法が分からず、割ピンを外してしまった。この割ピンはチョークバルブを引っ張るバネの支えの役割をしている。このピンを外すとチョークバルブが外れるのだが、組み戻すには特殊なモノが要る。たまたまあった、防虫網戸のステンレス網。この網のステンレス糸をつかってバネを割ピン側に引っ張ったのだ。
こんな細くて丈夫な糸はどこにでもあるものではない。くれぐれも、割ピンを外さないように。
・キャブレターの分解掃除
エアフィルターを外せばこのようにキャブレターが現れる。
ここまできて分かった。前の持ち主は埃を払ってエンジンが始動するかどうか試しただけのようだ。その証拠にキャブレターを分解掃除した形跡がないしマフラーのなかを覗いた様子もなかった。
したがって、キャブレターの分解掃除は必須。分解の前にすべての面の写真をとっておく。
まずキャブレターにくっついているアクセルアームを外すために取っ手を外さねばならない。取っ手のなかにアクセルノブやチョークノブが固定してあるのだ。
取っ手は底のネジを外せば素直にとれる。
アクセルアームの取り付け方。
慣れないとこれが意外に取り付けにくい。組み付けて、取っ手をはめ込もうとすると、アクセルアームが離れてしまう。何度も試行して、コツをつかむ。いらいらするが、このチェンソーが再生すると思えば楽しいもの。
シールの取り付け方。
「ネジを外すたびに写真を撮る」。この面は撮ったのだが。この裏側だけを怠った。そういうところに落とし穴があるもの。素人のうえに経験も知識もないため、ダイアフラムシールを逆に組み込んでしまった。結果、テスト運転してみたら何度始動してもエンジンが1秒ほどで停止した。むろん、ダイアフラムシールを正常に組み込んだらok。
・燃料ホース交換
燃料ホースに穴があった。これではエンジンがかからないし、ここまではっきりと穴が目視できるところに至るまでの長い間、エンジンは不調だったのではないか。
左が旧。右が新しい燃料ホース。
当初、入手不可能と考え、旧燃料ホースをシリコンホースで修理する予定だった。ところが、同一の機種番でないものの長さが異なるだけで接続部の内径、外形ともに同一と思える部品がWeb検索でみつかった。届いたホースを取り付けたらokだった。
取り付けた新しい燃料ホース。
キャブレターを外してから交換するとやりやすい。燃料漏れがないよう、燃料タンクから外に出る部分がきつく締まるようグロメット状になっているからだ。
・復活したSTIHL024AV
電気系の掃除、マフラー分解、キャブレターの分解掃除など、素人でできる範囲でエンジン系の調整を試みたのだが、もしかしたら燃料ホースの穴あきだけをクリアーすればそれで復活したのかも知れない。
エンジンは好調だ。ん〜。さすがアメ車(いや、STIHL社はドイツ発祥か)。燃料をいっぱい食いそう。馬力がある。マフラーを改造したバイクのように、バンバンはじけるでかいエンジン音。まあいいか。このチェンソーは間欠的な用途。山中で太い木の伐採につかうのだから。と言い訳。
先月再生したSTIHL024AVのジャンク品。実働試験をおこなったところ、力がもの足りない。
再生直後の簡易なテストではokと思っていた。アクセルを引けば吹き上がるし、生木が切断できた。しかし先日、枯れた梅の根塊が切断できなかった。
山沿いの農場には大きな根塊がいくつも転がっていて、雑草雑木の管理がやりにくい。ハイパワーの動力機械が稼動するようになったのだから、根塊を小さく切断して整理しようとしたところ、チェーンに大きな力がかかるとエンジン回転が落ちてしまう。
すでに電気系、キャブレター、ピストン系はチェック済み。アイドリングは安定。機能不全だった燃料フィルターも再生させた。エンジン回転も十分あがる。そこで、素人ながら、燃料をたくさん供給するための回路に不具合がありそうだと判断した。燃料フィルター、燃料ホース、キャブレターを再チェック。完璧だ。ところが、まさかのインパルスホース。ここにいきあたるまでにはチェンソープロショップ流庵が大いに参考になった。当該ページによればインパルスホースは「キャブレターからクランクケースに伸びるホース」で「クランク室の正負圧を利用してキャブレターの燃料ポンプを動かしている」という。わかりやすい。該ページでは不具合内容が異なるものの、インパルスホースに空気漏れがみつかり、これの交換作業をやったという。貴重な情報源である。
キャブレターを外してインパルスホースの場所を確認。燃料ホースブッシュの右にある。
きれいに掃除をした後、インパルスホースに不具合があるかどうかエアーを吹いてみる。ん。ん。漏れている。このホースにも穴があいていたのかぁ
となると。ともかく、インパルスホースを取り出さなければならない。
いやなところにある。「燃料供給系」と「動力系」を分離しなければならない。
左と中:底に近い部分に2箇所の大きなゴムブッシュがある。このネジを緩めてから手前に引っ張るとゴムブッシュが取り出せる。
右:電線は1本外して上のゴムブッシュを固定しているネジも外す。
これがインパルスホース。少し引っ張ったら切れてしまった。
「燃料供給系」と「動力系」を分離。石油できれいに掃除する。
ところで、このキャブレターに連結する太いゴムブッシュ。特殊な道具がなくとも組み戻せるのか。
それにしても、燃料ホース、このインパルスホース。両方共に穴があいていたとは。
切れてしまったインパルスホースは入手できるかどうか分からない。
ま、このホースは空気を通すだけだから、このようにシリコンチューブで補修しておけばokだろう。
組戻す。
たいした工具ではないものの。この工具があってこそできたこの修理。
完了。パワーがある。
ただし、チェーンの目立てを要す。